「芸術その魅力 J-POPを聴き解く―13人のうたことば
講師:田家秀樹(たけ・ひでき)[音楽評論家]
第9回 中島みゆき 女歌、男歌、人間歌
番組中かかった曲は、「時代」、「ファイト」、「命の別名」、「地上の星」の4曲でした。
「時代」の若々しい歌唱、「ファイト」のやさしい眼差し、「命の別名」の深い言葉とエネルギッシュな叫び、「地上の星」の壮大なスケール感。中島みゆきの作り出す世界に触れるたびに心を奪われてしまいます。
田家氏は「時代」の一番で「今日は別れた恋人たちも生まれ変わって めぐりあうよ」と歌われ、二番では「今日は倒れた旅人たちも生まれ変わって歩き出すよ」と歌われる、この「恋人」と「旅人」が中島みゆきの世界を象徴している言葉だと言います。「恋人」は女性、「旅人」は男性を歌っているのだと。
中島みゆきは70年代、80年代、90年代、2000年代にそれぞれオリコンシングルチャート1位を記録した唯一のシンガーです。そのうち70年代、80年代の「わかれうた」、「悪女」は恋に傷つく女たちの歌。つまり「恋人」。それが90年代の「空と君のあいだに」「旅人のうた」では一人称が「僕」になり「旅人」が歌われる。生まれ変わってめぐりあう恋人たちであり、生まれ変わって歩き出す旅人たちです。
2000年代の「地上の星」では空に燦然と輝くことはなくても地上で光り続ける星たち、市井で真摯に真剣に生き抜く人々に目を向けました。テーマは「共生」。みゆきワールドは一段と深みとスケールを広げたのです。
NHKのテレビ番組『プロジェクトX〜挑戦者たち〜』のプロデューサーが主題歌を依頼するとき、「命の別名」のようなイメージの曲を、と言ったそうです。その回答が「地上の星」でした。この曲は中高年層のサラリーマンを中心にじわじわと人気を高め、なんと発売から2年半近くを経てシングルチャートナンバーワンに輝きました。発売から130週かけての1位獲得はオリコン始まって以来最長期間を経た記録でした。通算オリコンシングルチャート100位圏内チャートイン記録も183週に及んでいます。
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